給料日に封筒でお金を受け取る——あの瞬間には、今でも忘れられない特別な重みがありました。茶色い封筒を手渡されるとき、担当の方から「ごくろうさま」と一言声をかけてもらう。その短い言葉に、ひと月分の苦労が報われたような気がしたものです。封筒が少しぶ厚いと、思わず指先で確かめながら、胸の内で静かに喜びを噛みしめました。「今月も、ここまでやってきた」という実感が、確かにその重みの中に宿っていました。
家へ帰ると、封筒をテーブルに置き、妻に手渡します。その瞬間の、少し照れくさい誇らしさ。家族から「ありがとう」と言われるあの温かな空気。ささやかな夕食でも、なぜかいつもよりおいしく感じられました。手渡しの給料には、お金という数字以上に、「働いた時間」「責任」「家族を支えている誇り」が詰まっていたのだと思います。
今では振込が当たり前になり、封筒を受け取る文化はほとんど姿を消しました。効率的で便利になったと言われれば、その通りです。けれど、あの手のぬくもりも、言葉のひと声も、もう味わえないのだと思うと、どこか少し寂しさを覚えます。昔の当たり前は、今の時代では非常識なのかもしれません。それでも私は、あの頃の「手渡しの感情」を大切にしていたいのです。
お金はお金でも、「働いて得たお金」は違う重さを持っていました。封筒を握りしめた掌の感覚、家族に渡すときの誇り、支え合って生きている実感。あの重みは、今も心の中で静かに輝き続けています。
0コメント